石破茂会長石破 茂 です。

さる8月28日、羽田孜元首相が逝去されました。享年82歳。老衰、というには少し早いような気も致しますが、田中角栄元総理は75歳、竹下登元総理は76歳、橋本龍太郎元総理は68歳、小渕恵三元総理は62歳で逝去されています。政治家、ましてや内閣総理大臣は批判されるのが宿命ですが、総理大臣職は間違いなく日々命を削る激職です。

羽田孜先生とは昭和58年、私が田中派木曜クラブの職員として初めてこの世界に足を踏み入れた時にお目にかかりました。当時先生は既に当選4回でしたが、入りたての26歳の一職員にしか過ぎない私に対しても気安くお声を掛けて下さり、誰にでも分け隔てなく接しておられたことが強く印象に残っています。

同年7月の参議院議員選挙の際、自民党たばこ耕作議員連盟の会長として私の地元鳥取県に来援された先生の運転手兼お世話係を二日間務めたのですが、その明るく気さくで飾らないお人柄にすっかり魅了されたものです。当時の田中派の職員や秘書たちの間で最も人気があったのも羽田先生でした。

昭和61年に当選した後も、派閥は違っても親しくして頂きました(私は渡辺派として当選)。当初小選挙区制に懐疑的であった私が、政治改革の嵐の中でその導入に向けて奔走し、その後自民党を離党して新生党や新進党に参加したのは、間違いなく羽田先生の掲げられた政治改革の理想に強い共感を覚えたからでした。

そんな私と先生が意見を異にしたのは、村山内閣当時の平成7年、終戦50年の国会決議を巡って新進党内で議論が行われた時のことで、決議の必要性を強く主張される先生と、決議の内容はともかくも、議員や政党によって歴史観は各々異なるが故に国会決議の原則である全会一致が望めず、国会は歴史に判断を下す権能も有していないとする私との間で、議論は平行線を辿りました。

その後、橋本内閣の下で行われた平成8年の解散総選挙の際、新進党が解散の日に発表した選挙公約は「消費税は21世紀まで3%で据え置く」「集団的自衛権はこれを認めない」というものであり、私が党内で主張していたものとは正反対の公約が、十分な論議もないままに示されたことに愕然として、新進党を離党して無所属で出馬する決意を先生に伝えたところ、強く慰留されました。この時も「党の公約と全く反する立場である者が党の公認候補として出馬すべきではない」という私と、「自民党に代わり得る政党をつくらねばならない」とされる先生とは、意見が交わりませんでした。

先生と最後にお目にかかったのは、先生が政界を引退され、総理経験者として桐花大綬章を受けられた際の祝賀会の時で、私は自民党の幹事長として先生との思い出を中心に祝辞を述べたのですが、既にお言葉やお体が不自由になっておられた先生はそれをじっと無言で聞いておられました。胸に言いようのない複雑な思いが去来したことを今もよく覚えています。

先生には自民党に代わる政党を作るという思いが強かったのに対し、私には小選挙区制の在るべき姿に強い拘りがありました。

今でも明るくて溌剌とした三十年前の先生のお姿が瞼に浮かんでまいります。出来ることなら、一度ゆっくりと来し方行く末をお話したかったのですが、もはやそれも叶わぬこととなりました。

御霊の安らかならんことを切にお祈り申し上げます。

8月29日早朝、北朝鮮が日本上空を越えるミサイルを発射しました。厳密に言えば、今回のミサイルは、領空とされる衛星の最低軌道である500キロを超える高度、すなわち領空外を飛翔し、落下した地点も我が国の排他的経済水域や領海ではなかったのですから、我が国の国家主権に対する侵害があったとは評価されません。

今回の発射が国連決議に明白に違反した暴挙であるということと、この事実とは、きちんと分けて論じなければ、議論は混乱していたずらに国民の不安を煽ることにもなりかねません。

「許されざる暴挙」と非難することももちろん重要ですが、同時に「発射に関する情報は正確に把握しており、ミサイル防衛体制についての今回の対応に全く問題はない」ことも併せて更に強くアピールしていく必要があるものと考えます。

北朝鮮に対する抑止には、①米国の拡大抑止(核の傘)の信頼性を高めるために平素から政治レベルでの協議を行っておくこと、②イージス・アショアの早期導入を含めてミサイル防衛体制を拡充すること、③シェルターの整備などとともに国民避難の訓練を充実させること、を着実に行っていくしかありません。

今日は防災の日ですが、国会でも中央官庁でもミサイル飛来に備えた避難訓練は行われていませんし、シェルターの整備も進んでいないことに強い危惧を感じます。これは党内で何度も指摘しているのですが、未だに具体化していません。「そのようなことは国民の不安を煽る」との思いからかと推測しますが、ミサイルの脅威に晒されている国の多くは当然やっていることなのです。

27日に投開票が行われた茨城県知事選挙は、自民・公明両党が支援した大井川和彦氏が7選を目指した橋本昌氏に勝利しました。公示前3回、公示後に2回茨城県に応援に入った者としては一定の安堵感がありますが、最大の争点は多選の是非だったのであり、民進党が事実上自主投票であったことも併せ考えると、自民党に対する信任が全面的に回復したというものでもないのでしょう。今後とも更に真摯な努力が必要です。

週末は2日土曜日が、高千穂町長との懇談(午前9時・宮崎県西臼杵郡高千穂町)、高千穂あまてらす鉄道見学・試乗(午前10時半・同)、「高千穂で考える日本と世界」第3回文化講演会で講演(午後1時半・JAゆめゆめプラザ・同)。

3日日曜日はJA鳥取いなば幹部との懇談、20世紀梨広域選果場挨拶回り(午前8時半・鳥取県八頭町広域選果場)、政策集団水月会夏季研修会(午後5時・ヒルトン小田原リゾート)、という日程です。

早くももう9月となってしまいました。まだなお残暑が続きます。

皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

政策コラム執筆者プロフィール
石破茂会長石破 茂 鳥取1区【衆議院議員】
生年月日:昭和32年2月4日
当選回数:10回
学歴:1979年3月 慶應義塾大学法学部卒業
得意な政策分野:安全保障・農林水産・地方創生