平将明菅政権は、看板政策の一つに行政のデジタル化を推進する要となるデジタル庁の創設を掲げています。平井卓也デジタル改革相は2021年9月のデジタル庁の発足に向けて進めており、河野太郎行政改革担当相も脱ハンコなど矢継ぎ早に打ち出し、行政の変化を感じている国民も少なくありません。とはいえ、平将明議員に言わせるとそれらはまだ序盤。本来の国のデジタル化とはどういうことなのでしょうか。〈以上、編集部記載〉

国のデジタル化は複数の課題を同時に解決しなければならない

菅政権になり、デジタル庁を作ることになりました。前回、日本のパブリックな部門でデジタル化が遅れているのはテクノロジーの問題ではなく、構造の問題だということを示しました。

中央省庁の“縦の壁”と、自治体・都道府県・国の“横の壁”の構造がある限り、利用者本位のITの一体的運用はなかなか進みません。どちらの壁も壊していかなければなりませんが、それぞれの担い手が別々で部分最適になっており、全体最適になっていません。

また、個人情報については、個人情報保護条例が自治体の数だけありバラバラで、これを標準化しなければ、ITを活用するにしてもすべての個人情報保護条例をその都度確認しなければならず、特に災害や感染症対応など緊急時には対応が後手後手になってしまいます。

5月末に運用開始した新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム「HER-SYS(ハーシス)」ですが、例えばある都道府県はつなぐのに時間がかかり結局連結運用が8月になってしまいました。その自治体には独自の個人情報保護条例があり、一定の手続きを経なければ国に対しても陽性者の個人情報を出せなかったためです。

これら一連の課題に対して、根拠になる法律や強力な権限、しっかりとした予算付けなどをして同時に解決していかなければ、デジタル・ガバメントは実現できません。前回に続き、デジタル庁創設に向けた国のデジタル化について考えを示していきたいと思います。

政府のIT予算7000億円をデジタル庁で一括調達

まず重要なのは予算と調達です。デジタル庁の最初の仕事は、政府のシステムの標準化やクラウド化になるでしょう。それを実現するのが“一括調達”です。

安倍政権では、もともと2020年の4月から政府の情報システム関連の一般会計予算約4000億円(各府省庁が各々調達の合計額)のうち複数の府省庁で共通するシステム約700億円を内閣官房IT総合戦略室で“一括計上”することにしましたが、新型コロナウイルスの対応のために、デジタル・ガバメント実現に向けてスピードを上げて取り組まなければならないということで、4000億円すべての予算をIT戦略室で“一括調達”することになりました。その後に菅政権が誕生し、さらに内閣官房IT総合戦略室をデジタル庁に格上げし、特別会計約3000億円を加えて全体では約7000億円の調達をすることになります。これは2020年度予算から順次拡大していて、3年以内に移行する予定です。

各府省庁が部分最適で調達していたものを政府全体で調達するようになりますので、その規模に合わせて標準化やクラウド化が進みますし、セキュリティの強化もしていきます。

また私が今年の9月、内閣府IT担当副大臣退任間際に検討を指示したものにSBIR(Small Business Innovation. Research)があります。スタートアップやベンチャー企業を育成するときに、政府が調達で応援するという仕組みです。実現すれば、7000億円の調達のなかで、UI、UXの分野などでスタートアップやベンチャー企業、中小企業のビジネスチャンスは格段に増えることでしょう。

例えば、菅首相が総務大臣時代にやったふるさと納税(2008年~)は、いろいろな民間企業が創意工夫し発信したことで一気に広がりました。インターフェースはオープンAPIで民間にやってもらうべきだと思います。

自治体を含めた約2000個のシステムを標準化

さらに、政府だけがシステムを標準化してもダメで、都道府県・自治体のシステムまで標準化する必要があります。しかし、実は自治体も中央省庁と同じようにオンプレサーバー(自前サーバー)でやっているため、目詰まりのないように約2000個(都道府県47、市区町村1750、広域連合等115)のサーバーを標準化し、一体のシステムにまとめていかなければなりません。

そのなかでは、現在、各自治体が持っているオンプレサーバーをクラウドに切り替えてもらうか、残存期間(契約期間)の長いものは途中で捨ててもらうというようなこともあるかもしれません。

さらには個人情報保護条例の標準化も必要です。ただ、自治体の個人情報保護条例は、国が2003年に個人情報保護法を作る前に自治体が先行して作っていたという歴史があり、自治体によっては「ここは譲れない」という意見が出てくるかもしれません。

これらがちゃんと回るようになれば自治体のIT担当者の負担も減ります。そこまでいくためには大きな力も必要ですし、自治体の理解も必要です。なかなか大変な仕事になりますが、国として取り組み、5年のうちにやり遂げる予定です。

マイナンバーカードをスマホと一体化

マイナンバーカードの普及も課題です。運転免許証や保険証とのひも付けをやっていますが、周りに聞くとスマホと一体化を希望する意見が多い。ちなみに、シンガポールではSIMカードと一体化させる考え方です。

日本では現在、マイナンバーカードをスマホのアプリで読み取ってログインしますが、今後はスマホの中に入っているFeliCa(フェリカ)のICチップにマイナンバーカードの機能を持たせる、という方向で検討しています。マイナンバーカードを読ませておけば、カード無しでもスマホで機能が使えるようになりますし、生態認証でなりすましができないようにもできます。

今回の新型コロナウイルス感染症対策の特別定額給付金の申請をする際、暗証番号を入れ間違えてロックしてしまった人がたくさんいました。これだけITを語っていて恥ずかしいことですが、かく言う私も別の申請でロックさせてしまった一人です。

そういったロックの解除や暗証番号の更新などは、今は役所に行って対面で本人確認しなければなりませんが、今後はコンビニの複合機などを用いたeKYC(electronic Know Your Customer/本人確認)でリセットできるようにするなど、利便性を高めていきます。暗証番号については、セキュリティと利便性の両立の観点から生態認証を併用するのがいいと思います。

いまなぜデジタル庁が必要か

英語で言う「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は同じデジタル化を指しますが、今やっていることを単純にデジタルに置き換えるデジタイゼーションと、やり方や在り方自体も変えてデジタル化していくDXでは意味が違います。河野太郎行政改革担当相がやっている行政手続きの押印原則廃止などはデジタイゼーションで、DX(デジタルトランスフォーメーション)は個々の手続きではなく生態系そのものがゴロっと転換するイメージです。

私たちがやらなければならないのはDXです。その手前で河野大臣が取り組む脱ハンコなどの“前さばき”はとても大事ですが、それ自体が目的ではありません。さらに言えば、デジタル・ガバメントはDX自体が目的になってはいけなくて、目指すのはあくまで国民の利便性向上です。

一つひとつがデジタル化されても利便性が高まらなければ意味がありません。スマホであらゆる行政手続きが1分以内に完結できる、そのようなKPIを待つべきです。運用のコストダウンもクラウド化などで図られなければなりません。

デジタル・ガバメントを進める理由は、社会全体の生産性を上げるためにDXが必要なわけですが、中途半端にやってアナログとデジタルが混在することによって逆に生産性が落ちるということがあるわけです。生態系全体で回るようにしなければなりませんので、困難な問題を同時に解決していく必要があります。それができなければ新たなパッチワークを作ることになってしまいます。

世の中全体がデジタル化しているのに、パブリックの領域だけアナログのままだと社会全体でデジタル完結しなくなってしまいます。中央省庁や都道府県や自治体がデジタル化して、古い規制も見直して、社会全体をDXし、生産性を上げ、国民の利便性を高め、そして新たなビジネスも生まれてくる……という仕組みを作っていきたいと思います。

※ 「政経電論」から転載https://seikeidenron.jp/articles/15179

政策コラム執筆者プロフィール
平将明平 将明 東京4区【衆議院議員】
生年月日:昭和42年2月21日
当選回数:5回
学歴:1989年3月 早稲田大学法学部卒業
得意な政策分野:成長戦略、中小企業政策、行政改革、クールジャパン政策、規制改革